企業のSNS運用を始めたいけれど、何から手をつければ良いか分からない、炎上リスクが怖くて積極的な発信ができない、とお悩みの担当者の方も多いのではないでしょうか。SNS運用に明確なルールを設けることは、炎上などのリスクを回避するだけでなく、運用の属人化を防ぎ、企業として一貫したブランドイメージを発信して成果を最大化するために不可欠です。本記事では、企業のSNS運用で定めるべき必須ルールを「10の鉄則」として網羅的に解説します。運用の目的設定からコンテンツ制作、緊急時の対応、効果測定まで、成果を出し続けるためのガイドライン策定手順がこの記事一本で全て分かります。
なぜ企業のSNS運用にルールが必要なのか
今や企業のマーケティング活動において、SNSは顧客との重要な接点であり、強力なコミュニケーションツールです。しかし、その手軽さとは裏腹に、SNS運用には大きなリスクが潜んでいます。明確なルールがないまま運用を続けることは、いわば「地図もコンパスも持たずに航海に出る」ようなもの。ここでは、なぜ企業がSNS運用にルールを設けるべきなのか、その3つの重要な理由を解説します。
SNS炎上による企業ブランドの毀損を防ぐ
SNS運用における最大のリスクは、何と言っても「炎上」です。たった一度の不適切な投稿が瞬く間に拡散され、企業が長年かけて築き上げてきたブランドイメージや信頼を、わずか数時間で地に落としてしまう可能性があります。
炎上の火種は、担当者の些細な気の緩みや知識不足から生まれることが少なくありません。差別的な表現、誤った情報の拡散、ユーザーへの高圧的な対応、あるいは従業員のプライベートアカウントでの不適切投稿など、その原因は多岐にわたります。一度炎上が発生すると、その鎮火には膨大な時間とコストを要します。
| 炎上が引き起こす主な損害 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ブランドイメージの失墜 | 顧客や取引先からの信頼喪失、ネガティブな評判の定着 |
| 売上の低下 | 不買運動の発生、サービスの解約、商談の破談 |
| 対応コストの発生 | 謝罪広告の掲載、問い合わせ窓口の設置、弁護士費用など |
| 株価への影響 | 上場企業の場合、株価が下落し、投資家からの信用を失う |
| 人材採用への悪影響 | 企業の評判悪化により、採用活動が困難になる |
SNS運用ルールは、こうした予測不能な炎上リスクから企業を守るための生命線です。投稿内容の事前チェック体制や、使ってはいけない表現のリスト化など、明確な基準を設けることで、人為的なミスを未然に防ぎ、企業の貴重なブランド資産を保護します。過去には大手企業でさえ、公式アカウントの失言や従業員の不適切な投稿により、大規模な謝罪や業績悪化に追い込まれたケースが後を絶ちません。
運用の属人化をなくしクオリティを担保する
「特定の担当者がいないと、SNSアカウントが更新できない」「担当者が変わったら、投稿の雰囲気や品質がガラッと変わってしまった」といった問題は、多くの企業が抱える悩みです。これは、SNS運用が特定の個人のスキルやセンスに依存する「属人化」に陥っている証拠です。
属人化した運用には、以下のようなリスクが伴います。
- 担当者の異動や退職によって、運用のノウハウが失われ、アカウントが放置される。
- 担当者ごとに投稿の品質やトンマナ(トーン&マナー)にばらつきが生じ、ブランドイメージに一貫性がなくなる。
- 運用状況がブラックボックス化し、組織として成果を評価したり改善したりすることができない。
SNS運用ルールを策定し、チーム全体で共有することは、この属人化問題を解決する最も効果的な手段です。誰が担当しても一定のクオリティを維持し、一貫したブランドメッセージを発信できる体制を構築することが、安定した成果を生み出す基盤となります。ルールは、担当者が変わってもスムーズに業務を引き継ぐための「共通言語」であり、運用ノウハウを個人のものではなく、組織の資産として蓄積していくための設計図なのです。
コンプライアンス遵守と法的リスクの回避
企業の公式SNSアカウントからの発信は、単なる「つぶやき」ではなく、企業の「公式見解」と見なされます。そのため、SNS運用には常にコンプライアンス(法令遵守)の意識が不可欠です。意図的でなくとも、法律に抵触する投稿をしてしまえば、「知らなかった」では済まされません。
SNS運用において特に注意すべき法的リスクには、以下のようなものがあります。
| 主な法的リスク | 違反行為の例 |
|---|---|
| 著作権・肖像権の侵害 | インターネット上の画像や著名人の写真を無断で使用する |
| 景品表示法違反 | 効果を過剰に謳ったり、根拠なく「業界No.1」と表現したりする |
| 個人情報保護法違反 | キャンペーン応募者の個人情報を本人の同意なく二次利用する |
| 名誉毀損・誹謗中傷 | 競合他社や特定の個人を貶めるような内容を投稿する |
これらの法令に違反した場合、投稿の削除や謝罪だけでは収まらず、損害賠償請求や行政処分、さらには刑事罰の対象となる可能性もあります。SNS運用ルールの中に、権利関係の確認フローや、個人情報の取り扱いに関する規定を明確に盛り込むことは、こうした法的リスクを組織的に回避し、企業の社会的信用を守るための重要な防衛策となります。
【10の鉄則】企業のSNS運用で定めるべき必須ルール
企業のSNS運用を成功に導き、炎上などのリスクを回避するためには、明確なルール作りが不可欠です。ここでは、企業がSNS運用を始める際に必ず定めておくべき10個の鉄則を具体的に解説します。これらのルールをガイドラインに盛り込むことで、担当者が変わっても運用方針がブレることなく、一貫性のあるアカウント運営が可能になります。
鉄則1 運用の目的とゴールを定めるルール
SNS運用を始める前に、「何のためにSNSを運用するのか」という目的と、「何を達成すれば成功なのか」という具体的なゴール(KGI/KPI)を明確に定める必要があります。目的が曖昧なままでは、投稿内容に一貫性がなくなり、効果測定も正しく行えません。チーム全体で目的とゴールを共有することで、日々の活動が戦略に基づいたものになります。
目的とゴールの設定例
運用の目的別に、設定すべきゴール(KGI/KPI)の例を以下に示します。自社のビジネス目標と照らし合わせ、最適な指標を設定しましょう。
| 運用の目的 | KGI(最終目標)の例 | KPI(中間指標)の例 |
|---|---|---|
| 認知度向上 | ブランド名の検索数増加 | インプレッション数、リーチ数、フォロワー増加数、プロフィールアクセス数 |
| ブランディング強化 | 指名検索でのサイト流入増加 | エンゲージメント率(いいね、コメント、保存)、UGC(ユーザー生成コンテンツ)数、ポジティブなコメントの割合 |
| リード(見込み客)獲得 | Webサイトからの問い合わせ・資料請求数 | 投稿からのリンククリック数、ランディングページへの遷移数、コンバージョン率 |
| 採用活動の強化 | 採用サイトからの応募数 | 採用関連投稿のエンゲージメント数、採用サイトへの遷移数、会社説明会への申込数 |
鉄則2 ターゲットとペルソナを共有するルール
「誰に情報を届けたいのか」を具体的に定義するルールです。ターゲット層を広く設定するだけでなく、年齢、性別、職業、居住地、価値観、ライフスタイル、抱えている悩みといった詳細な人物像である「ペルソナ」まで落とし込むことが重要です。ペルソナをチーム全員で共有することで、「この人ならどんな情報が嬉しいか」「どんな言葉遣いが響くか」といった視点が統一され、コンテンツの質が向上します。
鉄則3 アカウントのトーン&マナーを統一するルール
トーン&マナー(トンマナ)とは、アカウントの「人格」や「口調」を定めるルールです。複数の担当者で運用しても、まるで一人の人間が発信しているかのような一貫性を保つために不可欠です。ブランドイメージを損なわず、ターゲットに親しみを持ってもらうための重要な要素となります。
定めるべきトーン&マナーの項目例
- 人称:「私」「僕」「中の人」「私たち」「弊社」など
- 口調:「です・ます調」「だ・である調」、フレンドリーなタメ口調など
- 表現:漢字とひらがなの使い分け、専門用語の使用可否
- 絵文字・顔文字:使用の可否、使用する場合の種類や頻度
- ハッシュタグ:付ける個数、定番ハッシュタグの指定
- キャラクター設定:親しみやすい新人、知識豊富な専門家など
鉄則4 投稿コンテンツの制作と承認に関するルール
投稿ミスや不適切な内容の発信を防ぐため、コンテンツの制作から投稿までのフローを明確に定めます。特に、複数人によるダブルチェック、トリプルチェックの体制を構築することがリスク管理の基本です。誰が、いつ、何を、どのようにチェックするのかをルール化しましょう。
投稿までの承認フロー例
- 企画立案:投稿のテーマや方向性を決定(担当者)
- 原稿・クリエイティブ作成:テキスト、画像、動画を作成(作成者)
- 一次承認:誤字脱字、事実確認、トンマナのチェック(直属の上長など)
- 最終承認:コンプライアンス、法的リスクの観点からチェック(法務部や広報責任者など)
- 投稿予約・公開:承認されたコンテンツを投稿(投稿担当者)
このフローをルールとして定めることで、個人の判断による軽率な投稿を防ぎ、企業として発信する情報のクオリティを担保します。
鉄則5 著作権や肖像権など権利侵害を防ぐルール
SNS運用において、意図せず他者の権利を侵害してしまうケースは後を絶ちません。著作権、肖像権、商標権などの知的財産権に関する正しい知識を持ち、侵害しないためのルールを徹底する必要があります。権利侵害は、損害賠償請求や企業の信用失墜に繋がる重大なリスクです。
権利侵害防止のためのチェックリスト
- 著作権:他人のブログ記事やSNS投稿の文章、写真、イラスト、音楽などを無断で使用していないか?フリー素材サイトの画像や音源は、利用規約(商用利用の可否、クレジット表記の要不要など)を確認したか?
- 肖像権:従業員や顧客、イベント参加者など、個人が特定できる人物が写った写真を本人の許諾なく使用していないか?
- 商標権:他社のロゴや商品名、サービス名を無断で使用・加工していないか?
- 引用のルール:他者の著作物を引用する際は、引用の必要性があり、出典を明記するなど、公正な慣行に合致しているか?
鉄則6 ユーザーとのコミュニケーションに関するルール
SNSは一方的な情報発信の場ではなく、ユーザーと双方向のコミュニケーションを行うプラットフォームです。コメントやダイレクトメッセージ(DM)への対応方針を事前に定めておくことで、属人化を防ぎ、一貫性のある丁寧な顧客対応を実現します。
定めるべきコミュニケーションルール
| 項目 | ルール設定のポイント |
|---|---|
| 返信の範囲 | すべてのコメントに返信するか、質問のみに返信するかなどを決める。原則としてDMには個別返信しない、などのルールも有効。 |
| 返信の担当者と時間 | 誰がいつ返信するのかを明確にする。「営業時間内(平日9時~18時)に担当者が順次返信する」など。 |
| ポジティブなコメントへの対応 | 感謝の意を伝える定型文を用意しつつ、個別にアレンジを加えるなど、対応方法を定める。 |
| ネガティブなコメント・クレームへの対応 | 感情的に反論せず、真摯に受け止める姿勢を示す。公開の場で議論せず、DMや指定の窓口へ誘導するフローを確立する。削除やブロックの基準も設ける。 |
| いいね・フォローの基準 | どのようなアカウントに「いいね」やフォローをするか(またはしないか)の基準を設ける。無差別なフォローは避けるのが一般的。 |
鉄則7 投稿が禁止されている内容に関するルール
企業の公式アカウントとして、発信すべきではない情報を明確にリストアップし、全担当者が遵守するルールを設けます。これらの内容は、炎上の直接的な引き金となり、企業ブランドを大きく傷つける可能性があるため、特に厳格な管理が求められます。
投稿禁止事項の例
- 政治、宗教、思想、人種、性別など、特定の価値観に関する個人的な見解や偏見を含む内容
- 他者(個人・企業・団体)への誹謗中傷、批判、名誉を毀損する内容
- 公序良俗に反する、暴力的またはわいせつな内容
- 未確認の情報、デマ、フェイクニュースの拡散に繋がる内容
- 景品表示法に抵触するような誇大な広告表現(優良誤認、有利誤認)
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)に抵触するような、化粧品や健康食品の効果効能を保証する表現
- 2023年10月から施行されたステルスマーケティング規制に違反するような、広告であることを隠した宣伝投稿
鉄則8 個人情報や機密情報の取り扱いルール
SNS運用における情報漏洩は、企業の信頼を根底から揺るがす重大なインシデントです。顧客情報などの個人情報や、社外秘の機密情報を誤って投稿・漏洩させないための厳格なルールが必須です。
情報漏洩を防ぐためのルール
- 個人情報の投稿禁止:顧客や取引先、従業員の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを本人の許可なく投稿しない。写真に個人情報が写り込んでいないか細心の注意を払う。
- 機密情報の投稿禁止:未発表の新製品情報、業績に関する内部情報、M&A情報、社内の人事情報などを投稿しない。
- DMでの情報取得の禁止:原則としてDMでユーザーの個人情報を取得しない。キャンペーンの当選者連絡など、やむを得ない場合は、専用フォームに誘導するなどの安全なフローを構築する。
- アカウント情報の厳重管理:ログインIDやパスワードを安易に共有せず、定期的に変更する。担当者以外がアクセスできないように管理を徹底する。
鉄則9 緊急時や炎上発生時の対応ルール
どれだけ注意していても、予期せぬトラブルや炎上が発生する可能性はゼロではありません。問題が発生した際に、冷静かつ迅速に対応できるよう、事前に緊急時対応マニュアル(エスカレーションフロー)を整備しておくことが、被害を最小限に食い止める鍵となります。
緊急時対応フローの策定
炎上が疑われる事態を検知した場合の報告・連絡・相談ルートを明確に定めます。
- 発見・一次報告:SNS担当者が問題(批判的なコメントの殺到、誤投稿など)を発見し、直属の上長に即時報告する。
- 事実確認と状況分析:報告を受けた上長は、投稿内容、ユーザーの反応、影響範囲などの事実関係を迅速に確認する。
- エスカレーション:事態の深刻度に応じて、あらかじめ定めた責任者(広報部長、役員など)へ報告を上げる。
- 対応方針の決定:関係部署(法務、広報、お客様相談室など)と連携し、公式な対応方針(静観、投稿削除、謝罪など)を決定する。
- 対外的な対応の実施:決定した方針に基づき、責任者の承認を得た上で、公式なコメントや謝罪文などを発表する。
鉄則10 効果測定と改善レポートのルール
SNS運用は「やりっぱなし」では成果に繋がりません。定期的に運用の成果を振り返り、データに基づいて改善を繰り返すPDCAサイクルを回すためのルールを定めます。これにより、運用の目的達成に向けた再現性のある戦略を構築できます。
効果測定とレポートのルール化
- レポートの頻度:週次、月次など、レポートを作成・共有する頻度を決めます。
- 測定する指標:鉄則1で定めたKPI(インプレッション、エンゲージメント率、リンククリック数など)の進捗を追跡します。
- レポートのフォーマット:誰が見ても分かるように、報告用のテンプレートを統一します。数値データだけでなく、「なぜその結果になったのか」という考察や、「次は何をすべきか」という改善アクションプランまで記載することが重要です。
- 報告会の実施:レポートを元に関係者で定期的にミーティングを行い、現状の課題や次の施策について議論する場を設けます。
SNS運用ルールを策定する具体的な手順
企業のSNS運用を成功に導くためには、感覚的な運用ではなく、明確なルールに基づいた戦略的な活動が不可欠です。ここでは、炎上リスクを回避し、着実に成果を出すためのSNS運用ルールを策定する具体的な4つのステップを解説します。この手順に沿って進めることで、誰が担当しても質の高い運用が可能な体制を構築できます。
ステップ1 運用体制を構築する
ルール策定の第一歩は、「誰が」「何を」「どこまで」担当するのかを明確にする運用体制の構築です。責任の所在をはっきりさせ、各担当者の役割を定義することで、スムーズな連携と迅速な意思決定が可能になります。特に、複数人で運用する場合は、役割分担が極めて重要です。
運用責任者の決定
まず、SNS運用全体を統括する「運用責任者」を設置します。運用責任者は、運用方針の最終決定権を持ち、トラブル発生時には陣頭指揮を執る重要なポジションです。マーケティング部門や広報部門のマネージャークラスが就くのが一般的です。
担当者チームの編成
次に、日々の投稿作成、ユーザーとのコミュニケーション、効果測定などを担う「運用担当者チーム」を編成します。担当者は1人ではなく、複数人体制にすることで、業務の属人化を防ぎ、アイデアの多様性を確保し、休暇や急な退職にも対応できるようになります。
承認フローの確立
投稿内容が企業のブランドイメージやコンプライアンスに反していないかを確認するため、公開前の「承認フロー」を確立します。投稿担当者が作成したコンテンツを、上長や法務・広報部門などがチェックする体制を整えましょう。ダブルチェック、トリプルチェックを徹底することで、ヒューマンエラーによる炎上リスクを大幅に低減できます。
以下に、一般的な運用体制の役割分担の例を示します。
| 役割 | 主な責務 |
|---|---|
| 運用統括責任者 | 運用方針の策定と最終決定、KPI設定、予算管理、緊急時の最終判断 |
| アカウント運用担当者 | 投稿スケジュールの管理、ユーザーとのコミュニケーション(コメント返信、DM対応)、効果測定レポート作成 |
| コンテンツ制作担当者 | 投稿文の作成、画像・動画の制作・編集 |
| 承認者(法務・広報など) | 公開前のコンテンツチェック(コンプライアンス、ブランドイメージ、誤字脱字など) |
ステップ2 SNSガイドラインを作成する
運用体制が固まったら、具体的な行動指針となる「SNSガイドライン」を文書化します。これは、SNS運用に関わる全てのメンバーが遵守すべきルールブックであり、運用の一貫性を保ち、リスクを管理するための根幹となります。
基本方針(ソーシャルメディアポリシー)の策定
まず、企業としてSNSをどのように利用し、社会とどう向き合うかという基本姿勢を示す「ソーシャルメディアポリシー」を策定します。これは、従業員だけでなく、顧客や取引先など社外のステークホルダーに向けた宣言でもあります。多くの場合、企業の公式ウェブサイトで公開されます。
運用マニュアルの作成
次に、日々の運用で参照する、より実践的な「運用マニュアル」を作成します。誰が読んでも同じように理解・実行できるレベルまで具体的に記述することが、運用の質を安定させる鍵です。マニュアルには、前章で解説した「10の鉄則」の内容を網羅的に盛り込みましょう。
マニュアルに含めるべき項目例:
- 運用の目的とKPI(数値目標)
- ターゲットペルソナの詳細
- アカウントのトーン&マナー(文体、絵文字の使い方、呼称など)
- 投稿コンテンツの企画・制作フローと承認プロセス
- 画像・動画素材の選定基準(著作権、肖像権の確認方法)
- コメントやDMへの返信基準と対応フロー(返信する内容、しない内容、エスカレーション基準)
- 投稿禁止事項の具体的なリスト(差別的表現、政治・宗教に関する話題など)
- 機密情報・個人情報の取り扱いに関する注意点
- 炎上発生時の連絡体制と対応手順(一次対応、情報収集、公式発表など)
- 効果測定の指標とレポート作成・共有のルール
ステップ3 社内への共有と研修を実施する
どれだけ優れたガイドラインを作成しても、関係者に浸透しなければ意味がありません。作成したルールを社内に周知徹底し、全従業員がSNSのリスクと正しい向き合い方を理解するための仕組みを整えます。
全従業員への周知徹底
SNS運用は、担当者だけの問題ではありません。従業員個人のアカウントでの発言が、企業の評判に影響を及ぼすケースも少なくないため、ソーシャルメディアポリシーは全従業員に共有し、理解を促す必要があります。社内ポータルへの掲載や、入社時のオリエンテーションに組み込むなどの方法が有効です。
担当者向けの実践的な研修
運用担当者や承認者に対しては、ガイドラインの読み合わせだけでなく、より実践的な研修を実施します。過去の炎上事例を基にしたケーススタディや、批判的なコメントへの返信をシミュレーションするロールプレイングなどを通じて、ルールの理解度を深め、いざという時に冷静に対応できるスキルを養います。
理解度確認と同意書の取得
研修後には、簡単な理解度テストを実施したり、ガイドラインの内容を理解し遵守することへの「同意書」に署名をもらったりすることも有効です。これにより、担当者一人ひとりの責任感を高め、ルール遵守の意識を根付かせることができます。
ステップ4 定期的にルールを見直し改善する
SNSのトレンドやプラットフォームの仕様は日々変化しており、それに伴いリスクの形も変わっていきます。一度作成したルールが、時間とともに陳腐化してしまうことを防ぐため、定期的な見直しと改善のサイクル(PDCA)を回すことが重要です。
見直しのタイミングと頻度
ルールの見直しは、四半期に一度、または半年に一度など、定期的に実施するタイミングをあらかじめ決めておきましょう。また、それ以外にも、新たな炎上事例が発生した際や、プラットフォームで大規模な仕様変更があった際、自社の運用で何らかの課題が見つかった際など、必要に応じて随時見直しを行います。
改善プロセスの確立(PDCA)
効果測定レポートを基に、定例ミーティングなどで「計画(Plan)通りに運用できているか」「成果(Do)は出ているか」「課題(Check)は何か」「次の改善策(Action)は何か」を議論する場を設けましょう。このPDCAサイクルを回し続けることで、ルールはより洗練され、SNS運用の成果も向上していきます。SNS運用ルールは「作って終わり」ではなく、「育てていく」ものであるという意識を持つことが、長期的な成功に繋がります。
【プラットフォーム別】SNS運用ルールのポイント
SNSと一括りにいっても、X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、TikTokでは、それぞれユーザー層や文化、アルゴリズムが大きく異なります。そのため、全社共通のSNS運用ルールに加え、各プラットフォームの特性に合わせた個別のルールを定めることが、運用の成果を最大化し、リスクを最小化する鍵となります。ここでは、主要な4つのプラットフォーム別に、ルール策定で押さえるべきポイントを具体的に解説します。
X (旧Twitter) の運用ルール
Xはリアルタイム性と拡散力の高さが最大の特徴です。最新情報のスピーディーな発信やユーザーとの積極的な交流が求められる一方、その拡散力ゆえに炎上のリスクも高いプラットフォームです。運用ルールでは、迅速な対応と慎重な発言のバランスを取ることが重要になります。
X運用で定めるべきルールのポイント
| 項目 | ルール策定のポイント |
|---|---|
| 投稿の頻度と時間帯 | リアルタイム性を活かすため、1日に複数回の投稿を基本とするルールを設けます。通勤時間帯、昼休み、夜のゴールデンタイムなど、ターゲットがアクティブな時間を狙って投稿するスケジュールを定めます。 |
| 投稿内容 | 速報性のあるニュース、キャンペーン告知、ユーザーへの問いかけ、お役立ち情報など、簡潔で分かりやすい内容を基本とします。ハッシュタグの選定ルール(トレンド、オリジナルなど)も明確にします。 |
| コミュニケーション | リプライや「いいね」への対応方針を定めます。特にネガティブな意見や批判に対して、どのように返信するか、あるいは静観するかの基準を明確にすることが炎上防止に繋がります。エゴサーチ(自社名検索)を定期的に行い、言及に反応するルールも有効です。 |
| 禁止事項 | 誤解を招く断定的な表現、他者への攻撃的な発言、未確認情報の投稿を禁止するルールを徹底します。特に政治や宗教など、意見が分かれるデリケートな話題には触れないことを原則とします。 |
Instagram の運用ルール
Instagramは写真や動画といったビジュアルコンテンツが主役のプラットフォームです。企業やブランドの世界観を視覚的に伝え、ファンを育成するのに適しています。運用ルールでは、投稿全体の統一感をいかにして保つかが中心的な課題となります。
Instagram運用で定めるべきルールのポイント
| 項目 | ルール策定のポイント |
|---|---|
| ビジュアルの統一感(トーン&マナー) | ブランドイメージを決定づける最も重要な要素です。写真の構図、色味、明るさ、使用するフィルターなどのレギュレーションを具体的に定めます。Canvaなどのデザインツールでテンプレートを作成し、誰が投稿しても統一感が出るようにするのも効果的です。 |
| 投稿フォーマットの使い分け | フィード投稿、ストーリーズ、リール、ライブ配信の役割を定義します。例えば、「フィードは世界観の構築」「ストーリーズは日常的な情報発信やユーザーとの交流」「リールはトレンドを意識した認知拡大」といった使い分けのルールを設けます。 |
| ハッシュタグ戦略 | 投稿内容に関連するハッシュタグの選定ルールを定めます。ブランド名などのオリジナルハッシュタグ、業界のビッグキーワード、投稿内容に特化したスモールキーワードなどをバランス良く組み合わせる個数や選定方法を決めます。 |
| UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用 | ユーザーが自社の商品やサービスについて投稿してくれたコンテンツ(UGC)をリポスト(再投稿)する際のルールを明確にします。必ずDMなどで事前に使用許諾を得ること、投稿時にはメンション(@〜)でアカウントを明記することを徹底します。 |
Facebook の運用ルール
Facebookは実名登録が基本で、ビジネス利用者が多く、ユーザーの年齢層も比較的高めです。企業の信頼性や専門性をアピールする場として有効で、長文の投稿や詳細な情報発信にも向いています。フォーマルで誠実なコミュニケーションが求められます。
Facebook運用で定めるべきルールのポイント
| 項目 | ルール策定のポイント |
|---|---|
| 投稿内容と文体 | 企業の公式発表、プレスリリース、導入事例、専門的なコラムなど、信頼性や権威性を示すコンテンツを重視します。実名制のプラットフォームであることを意識し、丁寧語を基本とした誠実な言葉遣いをルール化します。 |
| コミュニティ管理 | Facebookグループを運営する場合は、その目的、参加承認の基準、投稿内容のガイドライン、禁止事項、コメントのモデレーション(監視・管理)方針などを詳細に定めたコミュニティルールを作成し、明示します。 |
| 個人情報の取り扱い | コメントやメッセンジャーでの問い合わせに対し、個人情報を聞き出すことや、公開の場で個人情報に言及することを固く禁じます。問い合わせ対応は、必ず非公開のメッセンジャーや指定の窓口へ誘導するフローをルール化します。 |
| 広告との連携 | Facebook広告を出稿する際のクリエイティブやターゲット設定のルールを定めます。オーガニック投稿(通常の投稿)と広告用投稿の役割分担や、投稿のブースト(広告配信)の判断基準も明確にしておくとスムーズです。 |
TikTok の運用ルール
TikTokは10代〜20代の若年層を中心に絶大な人気を誇る短尺動画プラットフォームです。トレンドの移り変わりが非常に速く、エンターテインメント性が強く求められます。企業アカウントの運用では、いかに「広告っぽさ」をなくし、トレンドに乗った面白いコンテンツを発信できるかが成功の分かれ目です。
TikTok運用で定めるべきルールのポイント
| 項目 | ルール策定のポイント |
|---|---|
| コンテンツの方向性 | 企業の宣伝よりも「面白さ」「役立ち」「共感」を優先するコンテンツ制作を基本ルールとします。流行のダンスやチャレンジ企画、お役立ち系のハウツー動画など、ユーザーが楽しめるフォーマットを積極的に取り入れる方針を定めます。 |
| トレンドへの対応 | 流行の楽曲やハッシュタグは数日で入れ替わるため、トレンドを迅速にキャッチし、企画から投稿までをスピーディーに行うための承認プロセスを構築します。「この種のトレンドには参加する/しない」といった判断基準も設けておくと、担当者が迷わず動けます。 |
| 楽曲・音源の利用 | 動画に不可欠な楽曲の著作権には特に注意が必要です。原則として、TikTokアプリ内で提供されている「商用ライセンス楽曲」のみを使用するルールを徹底します。オリジナル音源を使用する場合は、権利処理が完了していることを確認するプロセスを定めます。 |
| コメントへの対応 | フレンドリーでユーモアのあるコメント対応を基本としますが、誹謗中傷や悪意のあるコメントに対する対応基準も明確にします。コメントを非表示・削除する基準や、悪質なユーザーをブロックする基準などを定めておきます。 |
SNS運用ルールの策定や見直しはプロに相談
ここまでご紹介したSNS運用ルールは、企業の信頼を守り、マーケティング成果を出すために不可欠です。しかし、これらのルールを自社のリソースだけですべて網羅し、継続的にアップデートしていくことには限界があるのも事実です。SNSのトレンドや仕様、関連法規は日々変化しており、担当者が常に最新情報をキャッチアップし続けるのは大きな負担となります。
また、社内だけでルールを策定すると、どうしても内向きの視点になりがちで、世間一般の感覚とのズレが生じるリスクも否定できません。そこで有効な選択肢となるのが、SNS運用の専門家へ相談することです。客観的かつ専門的な第三者の視点を取り入れることで、より実効性の高いルールを策定し、形骸化させずに運用していく体制を構築できます。
SNSの専門家シエンプレに相談するメリット
SNSのリスク対策やコンサルティングを専門とするプロフェッショナルに相談することで、自社運用では得られない多くのメリットがあります。ここでは、豊富な実績を持つ専門会社であるシエンプレのようなプロに依頼した場合の利点を、自社のみで対応する場合の課題と比較しながら解説します。
| 項目 | 自社のみで対応する場合の課題 | 専門家に相談するメリット(シエンプレなど) |
|---|---|---|
| 専門知識・ノウハウ | 担当者の知識に依存し、最新の法律(景品表示法、薬機法など)や各SNSの規約変更に対応しきれない場合がある。 | 常に最新の法令、規約、炎上事例を把握しており、網羅的で実践的なルール策定が可能。業界特有のリスクも考慮した提案が受けられる。 |
| 客観性 | 社内の力関係や「これくらいは大丈夫だろう」という内輪の論理が優先され、リスクの高い判断をしてしまう可能性がある。 | 第三者の客観的な視点で運用体制やコンテンツをチェックするため、潜在的なリスクを早期に発見し、公平な基準でのルール作りができる。 |
| リソース・工数 | 情報収集、ルール策定、マニュアル作成、社内研修などに多くの時間と労力がかかり、本来のコア業務を圧迫してしまう。 | ルール策定や研修などを一任できるため、担当者の負担を大幅に軽減し、企画や分析といったコア業務に集中できる。 |
| 緊急時対応 | いざ炎上が発生した際に、対応経験がなく混乱してしまう。初動の遅れや不適切な対応が、さらに被害を拡大させる恐れがある。 | 炎上発生時の対応フローが明確になっており、専門家のサポートのもとで迅速かつ冷静な対応が可能。レピュテーションダメージを最小限に抑えられる。 |
このように、SNS運用の専門家は、単にルールブックを作成するだけではありません。企業の状況や目的に合わせたSNSガイドラインの策定から、実務に落とし込むための社内研修の実施、そして万が一の炎上発生時における鎮静化支援まで、一気通貫でサポートします。
自社だけで試行錯誤を繰り返すよりも、最初からプロの知見を活用することが、結果的に炎上リスクという見えないコストを削減し、SNS運用の成果を最大化するための最も確実な投資となるでしょう。
まとめ
企業のSNS運用において、炎上などのリスクを回避し、着実に成果を上げるためには、明確な運用ルールの策定が不可欠です。ルールがないままの運用は、企業ブランドを毀損するだけでなく、法的なトラブルに発展する危険性もはらんでいます。
本記事で解説した「10の鉄則」は、運用の目的設定からコンテンツ制作、緊急時対応まで、企業がSNSを安全かつ効果的に活用するための土台となります。これらのルールを定めることで、運用の属人化を防ぎ、投稿のクオリティを担保しながら、コンプライアンスを遵守した一貫性のあるアカウント運用が実現できます。
SNS運用ルールは、一度作成して終わりではありません。運用体制を構築し、社内で共有した上で、定期的な見直しと改善を続けることが重要です。もしルール策定や運用に不安があれば、専門家の知見を活用することも有効な選択肢となるでしょう。